のようだ。私は苦笑しながら髪をかきあげた。油っ気のない髪が、ばらばら額にかかって来る。床屋さんにお米二升をお礼に置いた。
「そんな事をしてはいけませんよ。」
 お上さんは一丁ばかりおっかけて来て、お米をゆさゆさ抱えて来た。
「実は重いんですから……」
 そう云ってもお上さんは二升のお米を困る時があるからと云って、私の背中に無理に背負わせてしまった。昨日来た道である。相変らず、足は棒のようになっていた。若松町まで来ると、膝《ひざ》が痛くなってしまった。すべては天真ランマンにぶつかってみましょう。私は、罐詰《かんづめ》の箱をいっぱい積んでいる自動車を見ると、矢もたてもたまらなくなって大きい声で呼んでみた。
「乗っけてくれませんかッ。」
「どこまで行くんですッ!」
 私はもう両手を罐詰の箱にかけていた。順天堂前で降ろされると、私は投げるように、四ツの朝日を運転手達に出した。
「ありがとう。」
「姉さんさよなら……」
 みんないい人達である。
 私が根津の権現様の広場へ帰った時には、大学生は例の通り、あの大きな蝙蝠《こうもり》傘の下で、気味の悪い雲を見上げていた。そして、その傘の片隅には、シャ
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