がありますように……。赤だの黒だの桃色だの黄いろだのの、疲れた着物を三畳の部屋いっぱいぬぎちらして、女一人のきやすさに、うつらうつら私はひだまりの亀の子のようだ。カフエーだの、牛屋だの、めんどくさい事よりも、いっそ屋台でも出しておでん屋でもしようかと思う。誰が笑おうと彼が悪口を云おうと、赤い尻からげで、あら、えっさっさだ! 一ツ屋台でも出して何とかこの年のけじめ[#「けじめ」に傍点]をつけてみたいものだ。コンニャク、がんもどき、竹輪につみれ、辛子のひりりッとしたのに、口にふくむような酒をつかって、青々としたほうれん草のひたし[#「ほうれん草のひたし」に傍点]ですか、元気を出しましょう。だが、あるところまで来ると私はペッチャンコに崩れてしまう。たとえそれがつまらない事であっても、そんな事の空想は、子供のようにうれしくなるものだ。
貧乏な父や母にはすがるわけにもゆかないし、と云って転々と働いたところで、月に本が一二冊買えるきりだ。わけもなく飲んで食ってそれで通ってしまう。三畳の部屋をかりて最小限度の生活はしても貯えもかぼそくなってしまった。こんなに生活方針《くらしむき》がたたなく真暗闇に
前へ
次へ
全531ページ中120ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング