に腰を掛けて、憂鬱そうに身の上話をしていたが、正直な人と思った。浅草の大きなカフエーに居て、友達にいじめられて出て来たんたけれど、浅草の占師に見てもらったら、神田の小川町あたりがいいって云ったので来たのだと云っていた。
お計さんが、「おい、ここは錦町になってるんだよ。」と云ったら、「あらそうかしら……」とつまらなそうな顔をしていた。この家では一番美しくて、一番正直で、一番面白い話を持っていた。
(十月×日)
仕事を終ってから湯にはいるとせいせいする気持ちだ。広い食堂を片づけている間に、コックや皿洗い達が洗湯をつかって、二階の広座敷へ寝てしまうと、私達はいつまでも風呂を楽しむ事が出来た。湯につかっていると、朝から一寸も腰掛けられない私達は、皆疲れているのでうっとりとしてしまう。秋ちゃんが唄い出すと、私は茣蓙《ござ》の上にゴロリと寝そべって、皆が湯から上ってしまうまで、聞きとれているのだ。――貴方一人に身も世も捨てた、私しゃ初恋しぼんだ花よ。――何だか真実《ほんとう》に可愛がってくれる人が欲しくなった。だけど、男の人は嘘つきが多いな。金を貯めて呑気な旅でもしましょう。
この秋ちゃ
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