の鈴本へ英子さんと行く。
猫八の物真似、雷門助六のじげむの話面白し。ああすまじきものは宮づかえ、千駄木へ戻って、井戸で水を浴びる。
物干に出て涼んでいると、星が馬鹿に綺麗だ。地虫が啼いている。蚊が唸っている。夜更けまで、何処かで木魚を叩くような音がしている。長い月日を西片町で暮していたような気がする。英子さんは、二三日して大阪へ戻る由なり。その後のことはまた考えればいいのだ。せめて、二三日、黙ってぐっすり眠りたいものなり。
(七月×日)
昼近く、読売新聞に行き、清水さんに面会に行くが、とうとう詩を返される。帰り、恭ちゃんのところへ寄る。ここも、不如意な暮しむきなり。節ちゃんと縁側で昼寝。氷水を十杯も飲みたい気持ちで眼が覚める。節ちゃんは子供を柱へくくりつけて洗濯。
何処へも行き場のない、行きくれた気持ちで縁側で足をぶらぶらさせていると、路地の外をものうい唄をうたってジンタが通る。籠の鳥でもちえ[#「ちえ」に傍点]ある鳥は、人目しのんで逢いに来る。……何だかその唄が身につまされて心のなかが味気なくなって来る。庭のすみに、小さい朝鮮朝顔の桃色の花がいっぱい咲いている。久しぶりで、しみじみと花の咲いたのをみた。恭次郎さん仲々戻らない。財布をはたいて、釜あげうどんを二つとって節ちゃんと食べる。金は天下のまわりもの、いずれは、のろのろとした速度で、また金のはいる事もありましょう。
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逢初の縁日は
香具師《やし》がいっぱい
粉だらけの白い朝鮮|飴《あめ》
螢売《ほたるう》りに虫売り
大道手品は喝采《かっさい》でいっぱい
カーチンメンドの冷し飴
臆病者の散歩
カアバイトの臭い燈火
バナナ屋のねじり鉢巻
ええあの太いのがくさるのよ
ゴム管で聴く蓄音機
ホーマーの詩でもあるのかな
深山の薄雪草にも似た宵
綿の水を吸って絹糸草が青い
水中花はコップの中で一叢《ひとむら》
アルペンの高山植物らしく
男を売る店は一軒もない
乾いた海ほうずきの紅色
心臓が黙って歩いている
ああ五時間もすれば
またどんな人生がやって来るのだろう
不可能のなかに後退してゆく脚
少しずつ思いの色が変化する
ゴマ入りの飴玉をしゃぶる
縁には紐《ひも》のない玉手箱。
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(七月×日)
英子さんが一緒に大阪へ行かないかと云う。大阪へ行く気はしないけれど、岡
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