らば指で丸をつくって、「ほら、こんなに円満なのさア」で、「ああそうか」と受取って貰うより仕方がないのだ。時々|埃《ほこり》を叩くような批評を貰う時がある。辛いなと思うけれども、それで、シゲキを受けることもひといちばいのせいか、すっかり呆んやりしてしまって、腐った、魚みたいに、二、三日|蒲団《ふとん》をかぶって寝てしまう。自分の作品がよくないからだ。一番、自分が知っているから一時はゆきば[#「ゆきば」に傍点]がなくなるけれども、机の前に坐り、また、こつこつ何か書き始める。私はこれが宗教だと云うようなものがあるとすれば、ただ、こつこつ書いている。その三昧境《さんまいきょう》にあるような気がする。厭な言葉だけれども、私は万年文学少女なのでもあろう。

 つい四、五日前、税務所のお役人が来た。お役人と云うと、胸がどきどきして、ちょうど昼食|時《どき》だったけれども、御飯が咽喉《のど》へ通らなかった。私は税金を払い始めてちょうど四年になるけれども、蔭では実際辛いなと思ったことがたびたびだった。収入が拾円の時が三、四度あったり、ちょっと旅をすると、その収入が止ったりするのに、税金は私にとって案外立
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