い樣子で歩いてゐながら、男は女に苦しめられ、女は男に苦しめられて生きてゐるのかと、時々たちどまつて群集を眺める折があつた。――もんは毎日會社へ勤めた。始めて會社勤をした時のやうに大きい輝くやうな希望はなかつたけれども、それでも、一年ぶりの東京での生活のせゐか、もんは活々としてゐた。軈て間もなく秋も終りになり、もんは[#「もんは」は底本は「もんと」]外套を着て通ふころになつて、もんは日比谷公園の前で思ひがけなく工藤に逢つた。工藤は外套も着ないで海老茶色の[#「海老茶色の」は底本では「老海茶色の」]脊廣を着てゐた。もんは吃驚してものが云へなかつた。「元氣さうだなア、僕は一週間ほど前に戻つて來たンですよ」工藤は癖でする、眼をぱしぱしとまばたきさせながら、もんの肩を抱くやうにして歩いた。もんは何が何だかわけがわからずに工藤の歩く方へ歩いた。「あれから、僕はさんざんな目にあつたンだ……何も彼もなりゆきで仕方がないけれど、これも僕の運命だし……一度、守一君のところにもおもんさんの樣子をきゝに遊びにゆかうと思つてゐたンですがね。――女房は流産のあげく、急性肺炎で亡くなつてしまひましたよ」工藤は鼻をつ
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