つてみんしや」
 八ツ口からふくふくした腕を出してゐたのを、その女の子は腕をまた袖口へもどして、今度は袂を持ち添へて栓抜きの上から押すのです。下唇に黒子があつて眉の濃い娘でした。その娘は銀色の丈長と云ふのを掛けて、ひつつめの桃割れに結つてをりましたが、此島の置屋(芸者屋)の娘ででもあるのでせう、仲々はきはきとしたものごしで、何がをかしいのか、ラムネの栓を抜いてもくちにむせてばかりゐて、はかばかしくラムネの水が減つてゆきませんでした。もう、ぽつぽつとおぼろげながら、心の日蔭を持つやうになつてゐても、カラカラとラムネの玉の鳴るのをきいてをりますと、まるで子供のやうに由も飲みたくて仕方がないのです。ですが、奉公にやらされる位でありましたので切符を買つて貰つて、穴のあかない五銭白銅をもらつたのがせいぜいで、此五銭白銅は、どんな場合があるかも知れぬ故大切に持つてゐるのだと、母親にくれぐれも云はれても云はれてゐた金なのでありました。
「そのラムネ、なんぼうな?」
「三銭よウ」
 娘が白い歯をニッとみせて云ひました。由はそれでミカン水の方にでもしようと手を差し出しますと、娘は早もうラムネの壜を取つて
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