りしてゐたのを思ひ出したが、今ではそんな子供を憎みきれない佗しいものを感じるのであつた。かへつて、子供の嘘に安々とだまされてやらなかつた自分に腹が立つて来て、こんなに、あの子供のことを思ひ出すのは、自分がまだあの子供に呪はれてゐるのだらうと思ふのだ――何時もの踏切の前まで来ると、サイレンが鳴り始めた。青い合羽を着た女の子が一人、カアキ色の合羽を着た男の子が二人、ぽつんと電車の通るのを待つてゐた。私は、その子供達の後へ行くと、
「いま学校の帰りなの?」
 と尋ねて見た。
 子供達は吃驚したやうな顔を私に向けたが、急に子供同志顔を見合せてくすりと笑つて、肩をちゞめた。子供に肩をすぼめられると私は困つた顔になり、遠くから地響きして走つて来る電車の方へ首をかしげるのであつた。電車の通りすぎるのを待つてゐる子供達は、たぶん堀向うの良家の子供達なのだらう、仲々馴れ親しまない誇りをみせて、もう、私のやうな大人なぞは忘れてしまつたかのやうに、一列に並んで電車を待つてゐた。
 私達の前を荷物電車がすさまじい響きをたてゝ走り過ぎて行つた。三人の子供達は兵隊のやうに、左の空いた方のレールの上をたしかめて、鳥
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