古道具屋だの、活動小舎の下足番とか人夫や、屑屋だの、家並が並んでゐた。雨が降つてゐるので、その長家の子供はのんびりした顔をして、唄をうたつたり、チンドン屋の真似をして遊んだりしてゐた。汚い子供達ばかりであつたが、どの子供達も頬がまるまるしてゐて幸福さうであつた。
床屋の帰りに呼びかけて来た子供や、花屋の店先きで私を呼んだやうな大人びた子供はひとりもゐなかつた。
私は歩きながら、いつたい、あの二人の子供たちのやうなのは、どこの町から出て来るのだらうと考へてゐた。
麦を一升買ふために、回読会の雑誌を売り歩いたり、判このかはりに爪印ではどうかと尋ねてゐる子供のことを考へると、何だか腹が立つやうに淋しかつた。本当に麦を一升買ふのならば、なぜ、あんな子供なンか、使ひによこすのだらう‥‥姉なり母親なりが、工面に歩けばいゝのに、あんな愛らしい子供が、「ねえ、買つとくれよ」と言つてゐるのを聞いてゐると、背筋に汗が流れるやうな冷々したものを感じるのであつた。
私に悪体をついて走り去つた子供にしても、何だか、大人を小馬鹿にしてゐる風な所があつた。私の袂をつかんで、ゴム長の靴にたまつた水をあけてみた
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