かって仕方がなかった。
「一寸《ちょっと》見せてよ」
 と言ったら、周章《あわ》ててしまいこんでしまったけれど……寛子は思い出したように急に立ちあがると、泥いじりしている啓吉へ、
「啓ちゃん、一寸お出で、一寸でいいの……」
 と、裏口から啓吉を呼びたてた。

       十三

 星の奇麗な晩で、頭の芯が痛くなる程、啓吉は二階からあおむいて空を眺めた。
 階下では、ハイキングに行った中の叔母の菅子が、野菊や赤い実のついた木の枝を土産《みやげ》にして、寛子と話しこんでいる。
「電気つけて……」
 伸一郎が、つまらなくなったのか、手摺《てすり》から離れると、啓吉に電気をつけてとせがんだ。机は茶餉台がわりに階下へ降りているので、踏台になるものが何もない。
「うん、電気よか、星の方がピカピカしているよ、伸ちゃん、僕がアメリカを見せてやるからお出でよ……」
「アメリカ」
「ああとてもよく見えるよ、明るくて国旗がいっぱい出ててさ……」
 啓吉が、伸一郎の腋の方へ手をまわしてかかえ上げると、伸一郎の胸の動悸がことこと激しく鳴っている。
「怖いかい」
「うん」
「怖かないよ……」
 かかえ上げると、
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