子さんと云ふ十四歳の少女の話声だ。
此家族が越して来て間もなく、洽子ちやんと云ふ十二になるお姉ちやんと、ポオちやんが手紙を持つて、夜が更けてから遊びに来た。手紙には大泉黒石と書いてあつた。まあ、そうですか、お父さまもよかつたらいらつしやいなと云ふと、男の子はすぐ檜の垣根をくぐつてお父さんをむかへに行つた。
洽子さんはまるで大人のやうにきちんと坐つて、静かなお家ですねと云つた。私は何だかいぢらしくなつて、ラヂオをかけて、面白いでせうと云つた。丁度アルゝの女の曲で喇叭が綺麗にはいつてゐた。洽子さんは黒と赤のだんだらのジヤケツを着て何時も手を隠してゐる。どらどらおばさまに洽子さんのお手々みせて頂戴と云ふと、可愛い手をそつと出して拡ろげた。その手は可愛かつたけれどもまるで大人のやうに荒れてゐた。洽子さんお台所なさるのと聞くと、御飯焚くわよと云つて、くすりと笑つてみせた。私は大泉黒石と云ふひとにまるで知識がないので、どんなお話をしたものかと考へてゐると、ポオちやんの連れて来た大泉さんは、まるで自分の家へあがるみたいにかんらかんらと笑らつて座敷へあがつて来て、私の母の隣りへ坐つたものだから、母は吃驚したやうな眼をしてゐた。手拭を腰にぶらさげて、息子さんのつんつるてんの飛白を着てゐるせゐか、容子をかまはないひとだけに山男のやうに見えた。
月に三百円はかゝると話してゐられた、大変だなと思つた。
台所が好きだと云ふ洽子さんを見てゐると、私も十一二の頃祖母の家にあづけられて飯を焚いてゐた頃を思い出して、洽子さんのふくらんだ頬が私のおさない時によく似てゐるやうに思へた。
「洽子さん柿の実はもう食べられるでしよ」
「あら、あの柿ねえ、愉しみにしてゐたら、大家さんでみんな持つて行つちやつたのよ。つまンないわ」
その翌る朝、台所の窓から柿の梢を見あげると、青い実一つ残らずみんなもいであつて、柿の木の下には、柿の落葉がいつそうたまつてゐた。
淵子ちやんが何かひとりごと云ひながら、炭俵の縄で柿の枝へブランコを吊つてゐる。おつこちるわよと声をかけると、ねえ、柿の実が天へ飛んでつたンですつて、だから、だからブランコしてもいゝつておかあさまが云つたのよと、小さな手で縄を結んでゐる。私は丘の上にある町の八百屋へ行つて、小さい甘柿を二升位も買つて来て、淵子ちやんのゐる隣家へ少しばかり持たせてやつ
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