傍点]に水を汲《く》んでぱさりと、蛙の背中に水をかけてやりました。蛙はびっくりして、長く脚を伸ばして二三度飛びはねてゆきましたが、より江がまばたきしている間《ま》に、どこかへ隠れてしまったのか煙のように藪垣《やぶがき》の方へ消えて行ってしまいました。
 乗合自動車が地響をたてて上がって来ました。おじさんは、
「さァて、山へ行くかな……」
 そう云って立ちあがりますと、より江のお母さんは、赤い旗を持って土間へ降りてゆきました。より江もひしゃく[#「ひしゃく」に傍点]を持ったままお母さんの後《あと》へついて、表の陽向《ひなた》へ出て行《ゆ》きました。



底本:「赤い鳥傑作集」新潮文庫、新潮社
   1955(昭和30)年6月25日発行
   1974(昭和49)年9月10日29刷改版
   1989(平成元)年10月15日48刷
底本の親本:「雑誌『赤い鳥』復刻版」日本近代文学館
   1968(昭和43)年−1969(昭和44)年
初出:「赤い鳥 8月号(終刊号)」
   1936(昭和11)年8月
入力:林 幸雄
校正:もりみつじゅんじ
2002年1月3日公開
2005年9月25日修正
青空文庫作成ファイル:
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