河沙魚
林芙美子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)曇《くも》って
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)色|濃《こ》い
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)なりふり[#「なりふり」に傍点]
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空は暗く曇《くも》って、囂々《ごうごう》と風が吹《ふ》いていた。水の上には菱波《ひしなみ》が立っていた。いつもは、靄《もや》の立ちこめているような葦《あし》の繁《しげ》みも、からりと乾《かわ》いて風に吹き荒《あ》れていた。ほんの少し、堤《つつみ》の上が明るんでいるなかで、茄子色《なすいろ》の水の風だけは冷たかった。千穂子《ちほこ》は釜《かま》の下を焚《た》きつけて、遅《おそ》い与平《よへい》を迎《むか》えかたがた、河辺まで行ってみた。――どんなに考えたところで解決もつきそうにはなかったけれども、それかと云《い》って、子供を抱《かか》えて死ぬには、世間に対してぶざまであったし、自分一人で死ぬのは安いことではあったけれども、まだ籍《せき》もなく産院に放っておかれている子供が、不憫《ふびん》でもあった。
吹く風は荒れ狂《く
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