ようなどす黒い肌であった。――藁《わら》の上から、親切な貰い手があれば一番いいのである。産み月近くには、二人ばかり貰い手の口もあったのだけれど、いざ生れて、猿っこのような赤ん坊を見せられると、二人の貰い手は、もっと器量のいい子供をと云うことになったのであろう。千穂子は日がたつにつれ気持ちが焦《あせ》って来た。このまま誰も貰い手がないとなると、与平との相談も、もう一度しなおさなくてはならないのだ。与平も、赤ん坊の片づく話を待っていたのだけれども、千穂子の顔色で、うまく話が乗ってゆかなかったと云うことをさとっていた。
「伊藤さんも、このごろ、少し、気が変って男の子がいいと云うのさ……」
私の子供は器量が悪いから駄目《だめ》だったのだとは云いづらかった。乳もよく出るのではあったけれども、どうせ手放す子供なら、早くした方がいいと云うので、生れるとすぐ乳は放してしまった。そのせいか、小さい躯は皺《しわ》だらけで、痩せた握《にぎ》りこぶしをふりあげている恰好《かっこう》は哀《あわ》れで見ていられなかった。親指を内側にして、しっかり握りこぶしをつくっているので、湯をつかわせる時には、握りこぶしのなかに、袂《たもと》ぐそのような汚れたものをつかんでいた。
「やっぱり、金でもつけねえと駄目か……」
千穂子はふっと涙が突《つ》きあげて来た。腰《こし》の手拭で眼《め》をこすった。
隆吉が兵隊に行って四年になる。千穂子との間に、太郎《たろう》と光吉《こうきち》と云う子供があった。あとに残った千穂子は、隆吉の父親の与平の家に引きとられて暮《くら》すようになり、骨身をおしまず千穂子は百姓《ひゃくしょう》仕事を手伝っていた。そのままでゆけば何でもないのであったけれど……。千穂子は臆病《おくびょう》であったために、ふっとした肉体の誘惑《ゆうわく》を避《さ》けることが出来なかったのだ……。一度、躯を濡らしてしまえば、あとは、その関係を断ち切る勇気がなかった。若い女にとって、良人《おっと》を待つ四年の月日と云うものはあまりに長いのである。良人の父親と醜《みにく》いちぎりを結ぶにいたっては、獣《けもの》にもひとしいと云う事は、いくら無智《むち》な女でも知っているはずであるのに……。田舎《いなか》の実科女学校まで出た千穂子が、こうしたあやまちを犯し、あまつさえ、父との間に女の子供を生んでしまった
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