岡の親類から鯖や鰮のけづり節も送つて貰つて、それも一緒に売つてみたが、むしろ、茶の方より、けづり節の方が案外よくさばけて行く時もあつた。
りよが鶴石のところへ行き出して、七八日たつた頃であつたらうか。まだ浅草を見た事がないと云ふ、りよと留吉を案内して、鶴石が一日休みがあるので、二人を連れて行つてやらうと云ひ出した。桜には、まだ早かつたが、時間があつたら上野公園も歩いてみようと云ふので、約束の日に、りよは鶴石に教へられた通り、上野駅のなかの、旅行案内所の前に留吉と立つて待つてゐた。半晴半曇のどんよりした日であつたが、雨さへなければかへつておだやかな日である。十分位もして、鶴石がゆきたけのつまつた灰色の古ぼけた背広姿でやつて来た。
りよは青い波模様の、着物地でつくつたワンピースに、これも綿入りの薄茶の背広の上着を着て、何となくおめかしをして留吉の手を引いてゐた。不断より若く見えたし、ひどく背の高い鶴石と並ぶと、りよは洋服のせゐか女学生のやうに背がひくく見えた。
「雨が降らなきやいゝがなあア……」鶴石は人ごみの中を、気軽に留吉を抱きあげて歩いた。りよは大きな買物袋をさげて、それにパンや、
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