鶴石の姉が大宮で鶴石の死骸をだび[#「だび」に傍点]にふして、明日の朝は戻つて来ると云ふのである。りよは呆然としてしまつた。呆んやりして、二人の男の片づけ事を見てゐると、棚の上にりよが初めの日に買つて貰つた茶袋が二本並んでゐた。一本は半分ほどのところで袋が折り曲げてあつた。「をばさん、鶴さんとは知り合ひかい?」「えゝ、一寸知つてるもンですから……」「いゝ人間だつたがなア……何も大宮まで行く事はなかつたンだよ。つい、誘はれて昼過ぎから出掛けちやつたンだ。わざわざ復員して来て、馬鹿みちまつたと云ふもンだなア……」肥えた方が、山田五十鈴のヱハガキをはづして、ぷつとヱハガキの埃を口で吹いた。りよは呆んやりしてしまつた。七輪もやかん[#「やかん」に傍点]も長靴もそのまゝで、四囲は少しも変つてはゐない。黒板に眼がいくと、赤いチョークで、リヨどの、二時まで待つた、と下手な字で書いてあつた。りよは留吉の手を取つて、重いリュックをゆすぶりあげながら、板塀を曲つたが急にじいんと鼻の奥がしびれる程熱い涙があふれて来た。「をぢさん死んぢやつたの?」「うん……」「どこで死んだンだらう……」「河へはまつちやつたン
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