つてゐた。櫻島で幼時を送つた私も、石ころ道を裸足でそだつたのだ。
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屋久島は山と娘をかゝへて重たい島
素足の娘と子供は足の裏が白い
柔い砂地はカンバスのやうだ
遠慮がちに娘は笑ふ
飛魚の頃の五月
屋久島のぐるりは銀色の魚の額ぶち
青い海に光る飛魚のオリンポスだ。
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十一時頃、バスは宮の浦の部落へ着いた。村の入口で、若い巡査が珍しさうにバスのヘッドライトに照されて立つた。巡査に田代館といふ古い宿屋を聞いて、私達はバスを降りた。宮の浦の部落はみんなランプであつた。磯の匂ひがした。宿屋は案外がつちりした大きい旅館であつた。女中がゐないのも氣に入つた。無口なおとなしい女主人が、ランプをさげて、二階の廣い部屋へ案内してくれた。橘丸ははいる樣子でせうかと聞くと、多分大丈夫でせうといふ返事だつた。バスの運轉手達は、この旅地で、最も私達に親切を示してくれた。明日七時には安房へ發つて歸るつもりだと言つてゐた。
底本:「現代紀行文學全集 第五卷 南日本篇」修道社
1957(昭和33)年9月15日発行
初出:「主婦之友」
1950(昭和25)年7月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:林 幸雄
校正:鈴木厚司
2006年9月17日作成
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