時々、それこそ、天の川のやうな訪問のしかたで、定子が五郎が逢ひに来た。[#「定子が五郎が逢ひに来た。」はママ]専造はそれが唯一の慰さめだつた。
「このまゝぢやア何とも淋しいねえ‥‥」
「妻君でも貰つたらどうなの?」
「食へないぢやアないか、女の干物は可愛想だよ」
 ひどい見幕で国宗が坐りなほつた。
「藤崎さん配給ですよツ」
 階下のお神さんが呼んでゐる。
「ものは何です?」
 専造がたづねた。
「とろろこぶですつて‥‥」
「はア‥‥」
 気が抜けたやうな返事をしたので、国宗も五郎もぷつと吹き出した。とろろこぶは重大であるかといふ問題が起きさうだ。
「僕、行つて来よう」
「またこの間みたいに高値いンぢやあないかな。お神さんに聞いてみて、高値いやうだつたら買はないで来るさ。――何しろ、べらぼうに配給品が高値いンだから変だよ。――君、コンニヤクの粉をもとにした代用粉と云ふものを食つた事あるかね? 一貫目八拾円と云ふンだが、どんなものかねえ‥‥」
「腹もちはいゝンだらうなア‥‥」
 五郎は鍋を持つて階下へ降りて行つた。



底本:「林芙美子全集 第十五巻」文泉堂出版
   1977(昭和52)年4月20日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:林 幸雄
校正:花田泰治郎
2005年6月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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