布と云つた方がいゝ程な古ぼけた柿色の毛布です。手荷物を嫌がらない人だつたら、ハルピンあたりで二枚も毛布を買つた方が長く使へるでせう。枕や毛布を借りるのはエトランゼだけで、私の隣人達は、枕から毛布、ヤカンまで持つて乗り込んで来ます。背負つた荷物の中から、かうした世帯道具が出るのは、三等車でなければ見られない図でせう。夜は、ボーイの部屋でスープをご馳走になりました。スープと云つても塩汁です。大変うまかつた。ピオニールも呼んでわけてやりました。ボーイは、私が泣いてゐるので、どうしたのか、「トウキョウ。ママパパ」恋ひしいかと云ふのでせう。私はスープを貰つてすゝつてゐたら、ふいに涙が出て困りました。乗客達は、私が小さいので、十七八の少女だとでも思つてゐるのでせう。それはそれはロシヤ人は、フランス人よりのつぽです。私は、此ボーイにニュームのコップと、レモンと残つた砂糖と、ヤカンと、茶を、モスコーへ着いたら遣る約束をしました。家には湯わかしがボロボロだと云ふのです。ロシヤは、どうして機械工業ばかり手にかけて、内輪の物資を豊かにしないのでせうか、悪く云えば、三等列車のプロレタリヤは皆、ガツガツ飢ゑてゐ
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