たずねています。
「ああ、もう逃げない。いつも、縁側で、さびしそうに歌をうたっているよ。トラジっていうのだの、アリランの歌がすきだね」
「僕も知ってるけど、いい声だね」
「うん、おとうさんは、大砲は、昔のことを、何も話さないから、しっかりしたいい子だっていってるよ‥‥」
「君は好きなの?」
「はじめはいやだったけど、いまは何ともないなア、どっかへ行っちまえばさみしいさ。僕のことを三ちゃァんっていうんだよ」
お家へかえって、沢井君のうちの、小池君の話をおとうさんにしました。
「うん、なかなか沢井さんのおとうさんはできた人だな」
と、感心していました。
うちのおかあさんは、病気もすっかりよくなりました。うちでは、みんな起きていて、元気です。おとうさんは、もう台所をしなくてもすむようになったし、僕も、静子も、もう台所はしなくてもいいのです。
おかあさんが、このごろ、イーストというもので、パンをつくって下さるけれど、イーストのパンって、それはおいしくて、もう、これから、僕たちは、お米のごはんを食べなくてもいいなんて話しています。
沢井君が、ラビットのししゅうをした青い旗を、ミシンでぬっ
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