にみてゆくよりしかたがないんだそうだよ。
 その子のおとうさんは、靴をなおしてたんだっていうんだけど‥‥でも、それだってわからないよっておとうさんがいうのさ。浅草でミシン屋をしてたって、長野でいってたのは、うちのことだろうっておとうさんが話してたけど、大砲って、ずいぶんおもしろい子どもだよ。
 歌ならどんなのでも知ってるし、鶏小舎で、鶏がたまごをうむと、いつも、どこにいても一番に走って行って、あったかいのをつかんで、大声で呼びながら飛んで来るし、とにかく変ってるんだ。学校大きらいなくせに、おじさん、大きくなったら大学へあげてねっていってるし、学校だって、一週間のうち、三度ぐらいしか行かないんだよ。先生もびっくりしてるけどね。ご飯の時だって、そりや早いんだよ。いま、お膳についたと思うと、もう皿のなかがからっぽ‥‥」
 僕はときどき、沢井君のうちの、その子どもをみたことがあります。年はおなじだけれど、学校は一年下だったので、遊んだことはありません。
 おでこのひろい、眼のひっこんだ小さい子どもです。
「君のうち、とてもえらいねえ」
 金井君がおどろいています。
「だって、その子だって、誰か
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