りました。
 大谷君は勉強は少しもできないけれど、とても正直なのでみんなが好きでした。
「どうして、大谷君はやみ屋になりたいの」
 先生がおたずねになると、大谷君はあかい顔をして、
「お金がたくさんもうかるそうですから」
 と申しました。
 女の子たちには早く大きくなってお嫁さんに行きますという子がいたり、先生になりたいというのや、魚屋さんになりたいというのや、美容師になりたいというのがいて面白いです。
 僕は夜、ごはんの時に、おとうさんに、今日のはなしをしました。おとうさんは大谷君を面白い子だなといいました。
 おかあさんは何だか気分が悪いといって早くおやすみになったので、僕と静子があとかたづけ[#「あとかたづけ」は底本では「あとかたづづけ」]をしました。
 あくる朝、おかあさんは熱があって起きられませんでしたので、おとうさんが台所をしました。おとうさんがすいとんをつくってくれました。僕のつくったふだん草をすいとんに入れました。
 いつも丈夫なおかあさんがおやすみなので、僕たちはちっともたのしくありません。近くには氷屋さんがないので、金だらいに水を汲んで来て、おかあさんの枕もとに置き
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