といいました。静子はおとうさんを呼んで来ました。
 おとうさんもやっぱり僕と同じように、そっとしておく方がいいといいました。僕は夏になると、いろんな生物がいるようになるのが好きです。
 おとうさんはおやすみが来たら、僕を釣に連れて行こうといいました。
 僕はいつものように、会社へ行くおとうさんといっしょに家を出ます。静子はいつもぐずぐずしているからほっといて行きます。
 涼しい風が吹いている朝の街をおとうさんと歩くのは好きです。
「及川先生がまた学校へもどって来られたんですよ」
「そうか、それはよかったねえ、先生はお元気かな‥‥」
「ええとても元気で、昨日は先生が英語の歌をうたってくれましたよ」
「ほう‥‥」
「それから、南方でとったのだっていろんな蝶蝶の標本も見せてくれたんですよ。及川先生は戦争がすむと蝶蝶ばかりつかまえて大切にしていたんですって」
 おとうさんの影法師が僕たちの前をひょこひょこ歩いて行きます。長い影法師です。
「ああさっき、八王子の子どもから健坊に手紙が来ていたよ、おとうさんにも来ているよ」
 お家のポストにはいっていた手紙を、そのままおとうさんがポケットへ入れて持
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