「ねえ、どんなところに住んでいるの。浅いところかしら、深いところかしら‥‥ずいぶん骨の太いおさかなね。うろこが大きいわねえ」
僕はじろりとにらみつけて、静子には返事をしない事にしました。
「あれはおさしみにならないっておかあさんいったわ、おさしみにするにはまずいって」
あいかわらずしらん顔をしていました。
くろだい[#「くろだい」は1段階大きな文字]
くろだいはだれもいなくなっただいどころで、じっと大きい眼をあけていました。大きいざるがかぶせてあるので、だいどころのようすをはっきりみることが出来ません。もうお正月がちかいので、にしめでもにるような匂いがしています。
くろだいは、だいぶくたびれたので、眼をとじようとしましたが、ここは海の中ではないので、ねむることが出来ません。ねむるのにつごうのよい岩かげもないし、砂地も塩水もないので、くろだいは心ぼそくなりました。夜がふけるにしたがってだんだん寒くなってきました。くろだいは、ふとんがほしいとおもいました。尾っぽの方からこおってきそうです。
あたたかい海の中へかえりたいとおもいました。歩きたいのですけれど、人間のよう
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