ラジオが、があがあと変な音をたてると、すぐラジオの前へ行つてダイアルをまわして調子をなおしてくれます。
 要さんは音楽も好きです。
 僕も音楽は好きです。きれいな音をきいているのはきもちのいいものです。それから、僕は、おとうさんやおかあさんの声も好きです。学校からかえっておかあさんの声がしていると、僕は何だか安心した気持になってうれしくなります。
 おとうさんは、このごろ、仕事をおさがしになっています。戦争の前におつとめになったところはおやめになったので、いまはおとうさんはお仕事は何もありません。
 おとうさんは毎日おうちを出てゆかれます。おかあさんは、おとうさんに早くいい仕事がみつかるといいと僕におっしゃいます。
 おかあさんが買物にいらっしやる時は、いつも僕がリュックを持ってついて行きます。すると、近所のおばさんが、
「健ちゃんぐらいになれば、もう、おかあさんのお手伝いが出来ていいですね」
 と、いいます。
 おかあさんはにこにこして、
「ええ、一人で行くよりはいいですね、一人では、高いわね、だの、安いのはないかしらなんてひとりごといえませんものね‥‥こんな小さい人でもいれば、何で
前へ 次へ
全79ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング