。おとうさんはいつも兵隊さんのはずだったがな、と思ったからです。
「やア、健坊、大きくなったなア」
おとうさんはそういってにこにこ笑っています。僕は飛び起きて「わあ」といいました。胸がどきどきしました。おとうさんがほんとうにかえってきたのだと思うと、うれしくてうれしくて仕方がありません。僕は、すぐとなりに寝ている静子と、宏ちゃんを起しました。
もう戦争がすんだから、おとうさんは兵隊に行かなくてもいいのです。
「ほんとうに戦争はすんだの」
と、僕がききますと、おとうさんは、
「ああほんとにすんだんだよ。先生は何とおっしゃったかい」
と、ききます。
「日本は戦争に敗けたんだって‥‥」
「そうだよ、だから、もう、おとうさんも戦争しないでいいのさ」
「戦争っていやですね」
「うん」
おとうさんは宏ちやんを抱きあげて、あごで宏ちやんの頭をぐりぐりやっています。
お蒲団をたたんでいらっしたおかあさんが、
「戦争ってきらいね」
と、おっしゃいました。僕のおかあさんは、いつも戦争ってきらいだ。きらいだとおっしゃって[#「おっしゃって」は底本では「おっしゃて」]いました。だから、あんまりそ
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