、とても気持がいいだろうなア、と思いました。アメリカの兵隊さんをはじめて見た時、僕はびっくりしました。みんな大きくてゆくわいそうです。僕たちはどうしたらいいかとまごまごしていたら、近よってきたアメリカの兵隊さんは、ネバマイン、ネバマインといいました。そして僕の肩を軽くたたいて行きました。

     3

 要さんは、昨日小田原に行ったのだとて、僕と静子にみかんを持ってきてくれました[#「きてくれました」は底本では「きくてれました」]。みかんってどうしてこんなにきれいなのでしょう。いいにおいね、と静子がいいます。あんまりきれいなので、むくのがおしいくらいでした。
「英語でミカンってなんていうの」
 要さんにききますと、中学生の要さんは、いかにも得意そうに、
「オレンヂというんだろう」
 と、いいました。
「ぢゃア、兵隊ってなんていうの」
「ソルヂャァだったかな」
 年子ねえさんがごはんを知らせに来ましたので、私たちはお家にはいってちゃぶ台の前に坐りました。壁がぬってないので、寒くなったら困るだろうと思います。おふとんや道具がいっぱい積んである処へ、おとうさんはもたれて、煙草を吸っています。僕たちがおべんとうを出しますと、おばさんはくすくす笑って、
「義理がたいことねえ、――昔のことを考えると、いまの子供たちはふびんだわ」
 とおっしゃいました。
 僕はおばさんのいうような、僕たちがふびんだなんてすこしも思わない。先生だっておっしゃったのだもの。いまの子どもたちはいちばんこれからいい人になるって、敗けたのはいいことだって、これからほんとうの気持でやりなおして、たのしい国になるんだっておっしゃったのをおぼえている。
「荘吾さんは、これからどうするんですの?」
 荘吾というのは、僕のおとうさんの名前です。おとうさんは「そうですね」といって、もう「会社員なんかいやになったから、田舎へ引っこんで百姓でもしようかと思ってますがね」といいました。
「だって、しろうとがすぐ百姓になれるかしら、第一、土地だってないでしょうしね。田舎もいまはおじいさんもなくなられたし、どうにもしかたがないことよ」
 おばさんは、僕たちにいもをむしてくれました。
 僕は、おとうさんの心ぼそい顔をはじめてみました。おとうさんは、沈んだようにみえました。僕は、何となくさみしくなったので、要さんに、
「いもっ
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