はいつもこんなのを書きます。おとうさんにいわせると、静子は女のくせにつめたい人間だから、何でもはっきりしているのだとおっしゃいました。
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すっかり春らしくなりました。
僕は、このごろ、毎日畑つくりです。おとうさんと二人で灰をつくっては土にまぜてやります。僕の植えたからし菜がもう青青してきました。
畑をするのはとてもたのしみです。
せまい庭ですけれど、僕はいろいろなものを植えました。ほうれん草、ちしや、じゃがいも、小かぶ、春菊、そんなものを植えました。
じゃがいもは、長野の本田さんのおじさんがすこし下さったのを、芽のところを中心にして二つ三つに切って、切り口へ灰をつけて植えました。だんしゃくという種類だそうです。とても大きいおいもです。
僕はじゃがいもが好きです。
早く花が咲いて、大きいおいもがごろごろ出来てくれるといいな。今日は、僕たちは、学校がお昼までだったので、金井君と畑をすることにしました。
今日は金井君が、僕のうちの畑を手つだってくれる番です。二人はかわりばんこに手つだいあうことを約束しました。
今日は、金井君は、畑にくいを打って、さくをつくってくれるのです。僕の家の近所はとても犬が多くて、せっかく、きれいにならしておいた畑の上を歩きまわって荒しているので、とてもしゃくにさわって仕方がありません。
終戦前までは、犬なんかあまりいなかったのに、このごろとても野犬が多くなりました。首輪のない犬が、いままでどうしてくらしていたのだろうと思うくらい、大きいのや小さいのと、五六匹も走りまわっておもしろそうにふざけあっています。その中で、ポインタア種の、栗色をしたとてもすごいのがいて、子供たちはみんなこれをチョコといってこわがっていました。
とても人なつっこいのですけれど、何となくこわいのです。もうおじいさんで、前は、本庄さんという家にいたのですけれど、そこの人が田舎へいってしまって、ほかの人が来たので、そのチョコは、一人ぼっちになったのです。
僕の組はたいていみんな長野へ疎開して行ったのに、僕だけは、この本庄さんのチョコと東京へのこっていて、あのこわかった空襲をよく知っています。
チョコは、僕になついているのですけれど、畑を歩きまはるのでにくらしくて仕方がありません。チョコは誰もかっている人はありません。それなのに、よくふとっ
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