んはよろこんで貰った。
 ホームにはまだたくさんの人がなだれて來ている。巖ちゃんは腹がペこペこに空いていた。
 陽の明るい、驛の前へ出て、點字新聞をひろげてみると、五十錢札が四枚はいっていた。巖ちゃんはよれよれのきたない五十錢札をポケットへ入れた。
 とにかく、腹ぺこなので、大いそぎで家へ戻った。
 おにおん倶樂部の總會の日。
 はしゃぎやの巖ちゃんは、盲目のひとを上野驛へ送って行った話は、なぜかしなかった。何だか、巖ちゃんは、それを、如何にもいい事をしたかのように話すのはいやだと思った。
「巖ちゃんは、何かあったのかい?」
 善ちゃんがたずねた。
「何もないよッ。そんなにいい事って、別にない……。」
 そう云って、煙の巖ちゃんは、眼をつぶって點字新聞を指でおさえてみている。點字新聞は汚れてぼろぼろだった。みんな不思議そうに、その點字新聞をのぞきこんだ。


底本:「童話集 狐物語」國立書院
   1947(昭和22)年10月25日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:林 幸雄
校正:鈴木厚司
2005年5月8日作成
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