?」
「僕は、前には、麹町にいたンだけど、燒けちゃったンだよ。でも、半年ばかり、お母さん達と、草津の方に疎開してたの……。」
「ほう……草津にねえ、どうですか? あすこは、宿屋は繁昌していますか?」
「さア、僕は知りあいのところにいたからよく知らない。宿屋も滿員だけど、疎開學童がいっぱい行ってたから、よく判らない。」
やがて、電車が來た。
三人はやっとの思いで乘り込んだ。
「おかげさまで助かります。濟みません。」
二人は、いかにも安心したらしく、ほっとしている樣子である。
「上野へ着いて、二時何分の新潟行きの行列のところまで、送って行ってあげよう。」
と巖ちゃんは云った。
一人の背の高い方の、盲目のひとが、「自分は何年にも、こんな親切なひとにあったことがないです。」とよろこんでいる。
「兵隊に行ってたンですか?」
巖ちゃんがきいた。
「自分は、滿洲に長く征っていて、それから中支に征き、眼をなくしたンです。」
と、そのひとは云った。
ああそうか、兵隊だったのかと、巖ちゃんは氣の毒に思って、今日は、いい事をしたと思うのだった。――上野へ着くと、ここもものすごい人の波で、やっ
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