まじかに迫っているので、煙りの巖ちゃんは、何かいいことをするチャンスはないかと考えていた。
今日は日曜日。
巖ちゃんは勉強をすませて、お母さまにつくってもらったパンを二つ、ポケットにいれて戸外へ出た。
何かいいことはないかな。倶樂部員があっと云うような、いいことをしたいものだと思っていたので、見るもの聞くもの珍らしく、とうとう歩いて新宿驛に行ってみた。
新宿驛は、まるでもう人の河のようである。流れてゆく人の波を見ていると、巖ちゃんは冒險好きな氣持がますますつのって來た。
すると、驛の前で、たくさんの人の流れがうようよしているなかで、色眼鏡をかけた、盲目のひとが二人、しっかり手をつなぎあって、人の波にぶっつかりながらうろうろしているのを見た。二人とも大きいリュク・サックを背負って竹のステッキを持っている。
じいっと巖ちゃんが見ていると、その二人はいかにも途方にくれたようなかっこうでしまいには、驛のホールの眞中につっ立ってしまった。そして、しばらく、二人はひそひそ話あっている。これを見て、巖ちゃんはそばへゆき、
「何處へ行くのですか?」
と、きいてみた。子供の聲なので、盲目のひ
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