ゝと云つた風な気持ちになるのであつた。
「何にしても、人生つて、くたびれるところなのね」
「直子さん! あンたはまだ本当にお嬢さんだわ、私、このごろでは、人生と根くらべよ――私、子供にオルガン習はせてやりたいことが理想なンだけれども‥‥えゝ一生の仕事として、それをやつてやりたいと考へてゐるのよ、私は、生きてゐることは楽しみだともこのごろ考へだしたわ」

 10[#「10」は縦中横] 雲の飛ぶよな
 今宵のあなた
 みれんげもない
 別れよう‥‥

 料理店リラの女達の中には、この唄はまだまだ唇に苔むされてゐた。
 お粒は、酒にも弱くなつたのか、毎日呆んやり煙草を吸つて唄つてばかりゐた。――サトミは相変らず、底の判らない顔色でニヤニヤ笑ひながらレコードをかけてゐる。百合子は百合子で、華美な着物ばかりつくつて操達をうらやましがらせてゐた。
 雪もないうららかな日が続いた夕方――静かにレコードの始つてゐるリラの扉をあけて、
「おい! とう/\やつたよツ! ホラツ」
 せん子が第一番に、立ち上つた。岡田は震へる手つきで、マホガニの卓子の上に新聞紙をひろげた。
 ――牧法学博士一女給と心中を計る
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