両替油渡世《しちりょうがえあぶらとせい》のほうにも手を出して、かねがね長庵さんを通して脇坂様の殿様にお取り持ちを願ってあるように、やがては、同じ越後《えちご》の柏崎出のあの伊豆屋伍兵衛を蹴落《けおと》して、この筆屋が成り変ってお城の御用を仰せつかることも出来ようというものだ」
 すっかり嬉《うれ》しくなっちまった筆屋幸兵衛、思わず大声に、茶の間《ま》のおかみさんに話しかけた。
「婆《ばあ》さんや、よろこびな――筆屋は万々歳《ばんばんざい》だ。この屋台骨はびくともしねえぞ!」
 いきなり呼びかけられて、何の話だか知らないから、おかみさんは新しい建前のことだとばかり思って、
「当り前じゃアありませんか。きょう棟上《むねあ》げをした許《ばか》りですもの。そんなにすぐ屋台骨がぐら[#「ぐら」に傍点]ついて耐るもんですか」
 感ちがいしている。何を言やアがる、婆さんこの頃すこし耄碌《もうろく》して来たぞ、と、筆屋幸兵衛は呟《つぶや》いた。

      三

「それでは殿様、わたくしはこれで失礼を――」
「おう、長庵、帰るか。では、な、琴二郎をあやつって聞き出すこと、よっくその方に頼んだぞ」

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