あれはまだ処女《おぼこ》だから、おれのようないい男に言い寄られて恥かしいのであろう。無理もねえ――なんかと、いい気なもので、いずれは望みがあることと勝手に決めているのだから、お妙が厭《いや》がって厭がって、きらい抜いているのも知らずに、何かにつけ用を拵《こしら》えては、一日に何度でも、さかんに壁辰のところへ出かけて行く。
そういう気があるから、今日も、おやじの話を聞くと、じぶんから進んで壁辰を呼びに走り出したのだが、なに、幸吉としては、壁辰は勿論、おやじの用なんかどうでもいい。ただ一眼なりとお妙の顔を拝んで、一くちでも口をききたいという一心なんで――息子のそんな意中《こころ》はちっとも知らないから、筆屋幸兵衛は、
「ああ、伜《せがれ》は感心なものだ。若旦那とか何とか大勢の者に立てられていても、わたしの用事となると、奉公人は遊び呆けているのに、ああして自分で駈け出して行く。人を使うものはああでなければならない。有難い、ありがたい。あの幸吉がいるあいだ、この筆屋の屋台骨《やたいぼね》は小ゆるぎもしますまい。ありがたいことだ。幸吉がああいう調子なら、筆屋も筆紙《ふでかみ》類ばかりでなく、質
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