げた。それも、横を向いて頭をさげたのだから、おじぎのようには見えない。ただ、首をうごかしただけである。殿様の前に、傲慢《ごうまん》――と言えば傲慢な態度なのだが、長庵はこんなふうに、人を人とも思わないところの見える男なのだ。が、そのかわり、言葉だけは、ばか丁寧《ていねい》である。
「はい。兄弟のことではござりまするし、それに、平常《ふだん》から、普通の兄弟に倍して、兄思い、弟思いの喬之助さまと琴二郎さまでござりまするによって、兄喬之助様の隠れ場所を、弟御が知らぬということはないと考えられまする。且つは、もう七日も経《た》っておりますことでござりますから、本人の喬之助も、多少は安心を致しまして、築土《つくど》八|幡《まん》の自宅のほうへは、それとなしに所在を知らせておりはせぬかと、これはまあ、長庵めの推量《すいりょう》でござりまするが――」
「しかし」と、山城守は、大きな膝をゆるがせて、ちょっと長庵へ向き直った。「園絵《そのえ》のほうは、かなりに厳《きび》しくしらべを致したようじゃが、無駄《むだ》だったようじゃ」
長庵は、小さく声を立てて笑った。
「それは、いくら園絵さまをおしらべにな
前へ
次へ
全308ページ中66ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング