うっかりしてはおられぬ。気付かれた以上、何とあっても壁辰の息の根を止めなくては!――が、あの娘だ。あれが自分を庇《かば》い立てでもするように、自身番へ訴人することを肯《がえん》じないという――はて、どういうこころであろう? と、この危急の場合にも、お妙の心中を考え、訝《いぶ》かしく思いながら――そろりそろり跫音《あしおと》を盗んで、喬之助は、台所の戸のこっち側に立った。
杉戸一枚の両側に、喬之助と壁辰――ともに、呼吸《いき》を凝《こ》らして、相手の動静《どうせい》をうかがっている。
どっちも、用心して、この戸一まいが容易に明けられないのだ。
押しつけるような閑静《のどか》のなかを、直ぐ前の御成《おなり》街道をゆく鳥追いの唄三味線が、この、まさに降らんとする血の雨も知らず、正月《はる》を得顔《えがお》に、呑気《のんき》に聞えて来ていた。
と、壁辰が、誘《さそ》いの声を投げた。
「お若いの――いや、神尾喬之助さまとおっしゃいましたね。何もあっしが、下手な文句を並べずとも、ズンとお解りでございましょう。神妙《しんみょう》に、失礼ながらこの壁辰めの繩をお受けになりますか。それとも、この
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