を開けて出るわけにはいかねえぞ!――と考えたから、尚もかれは、じイと耳を凝《こ》らして茶の間の様子を窺《うかが》うと――。
やっぱり、人の気もないように、森閑《しんかん》としずまり返っている。
喬之助は、何をしているか!
かれは、どういう気でこの壁辰へ舞い込んで来たのか――それはとにかく、こう見破られてしまっては、止むを得ない。壁辰のおやじを叩き斬って、もう一度どこかに身を隠すまでだ。と、戸部近江之介の血を浴びて、面相が優しいだけに、内心|鬼《おに》のように強くなっている喬之助だ。とっさに、斬りまくってこの家を出る決心を固め、忍《しの》び足に茶の間を出ると、そこは、直ぐ台所へ続いている三尺の小廊下である。ふと、喬之助の眼に止まった物がある。廊下の壁にかけ列ねてある御用|提灯《ちょうちん》だ。どうして這入って来る時、その提灯に気がつかなかったのだろう?――うウム、さては、この壁辰は岡っ引きでもあったか――と、迂濶《うかつ》のようだが、市事《しじ》にはうとい、お城詰めの武士だった喬之助である。はじめて知って、これではまるで、われから獅子《しし》の口へ飛び込んで来たようなもの。ますます
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