うことを聞いて、一時も早く五人組を呼んでここらを固めさせ、おいらが不意に面《めん》を引っ剥《ぱ》いでひっ縛《くく》ろうてんだ。な、わかったか。解ったらさ――」
「いいえ! わかりません!」
「お妙、てめえ今日はどうしたというんだ!」
「親分さん!」茶の間から喬之助の声が聞えた。「何かお取込みのようですが、御|迷惑《めいわく》なら、あっしはまた出直して来てもいいのでごぜえます」
「なあにネ、ちょいとこいつに、使いに行けと言いつけているところなんで、直《す》ぐそっちへ行くから」
すると、この時、何を思ったか、娘のお妙が大声を張《は》り揚《あ》げて言ったのだった。
「お父つぁんは、あたしに、お前さまのことで自身番に訴え出ろと言って、肯《き》かないのでございます」
「これッ! 何を言う!」
壁辰は、猿臂《えんぴ》を伸ばして、娘の口をふさごうとした。お妙はよろめいた。ガタガタッ! と棚へぶつかって、皿小鉢が落ち散った。
しイん――と静寂《しずか》。
茶の間では、すッくと起《た》ち上った喬之助が、手早く帯を締め直している。いつの間に抜き放ったのか、冷《れい》々たる九寸五分を口にくわえて。
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