人は関東さね。江戸一円の、こう、気の荒っぽいやつに限らあね。土台《どだい》、仕上《しあ》げが違う――何をしてるッ! 早く行かねえかッ!」
「え? わっしですか。わっしがどこかへ行くんですか――」
「ウンニャ、お前、おめえさんじゃアねえ。ははははは、ちょっと当方《こっち》に話があるんだが――だからよ、大工《でえく》でも建具《たてぐ》でも、何でもそうだが、職人てものは気性《きっぷ》でね、ことに左官なんて、濡《ぬ》れ物を扱う職は、気性一つなんだ――」低声《こごえ》でお妙に、「てめえどうしても自身番《じしんばん》へ行かねえと言うのか」
「あのお客さんが何をしたというのでございます? お父つぁん、どうか訳をお話なすって――」
「べら棒めッ! そ、そんなこと、ここでくどくど[#「くどくど」に傍点]言っていられるけえ! 女子供の知ったことじゃアねえんだ。さっさと自身番へ――」
「いいえ! わたしは聞きたい!」
お妙は、急に儼然《げんぜん》とした口調になった。
「一たいあの若いお人は、どこの何という人で、何をしたのでございます?」
「何でもいい。お上のお尋ね者なんだ。だからヨ、だから父《ちゃん》の言
前へ
次へ
全308ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング