えか。なあ、お前さん、どこから来なすった――やはり、関東のお人のようだね」
と、直ぐまた声を低めて、娘のお妙《たえ》へ、
「いいか、急いで自身番へ行ってナ、うちにこれから捕物《とりもの》がありますからって、町内五人組の方に来て貰うんだ――すこし手強《てごわ》いから、腕《うで》ッ節《ぷし》のつよいやつを纏《まと》めてくるように――」
「あの、お捕物――?」
さッ! と顔色を更《か》えたお妙は、二、三歩、泳ぐようにうしろによろめいて、鈴を張ったような眼で父親の顔を見上げた。急には口も利けないほど、打たれたような驚愕《おどろき》だった。
「では、アノ。あの、若いお客様が、何か――何か――悪いことでもなすったのでございますか?」
「まあ、いい。手前《てめえ》の口を出すことじゃねえのだ。汝《われ》あただ、言われたとおり、こっそりこの裏ぐちから忍《しの》び出てナ、自身番へ駈けつけて――」
と、言いかけた時に、こっちは、台所から話しかけられた喬之助である。壁辰は、水でも呑《の》みに台所へ行ったのだろう――と思っているところへ、先刻《せんこく》の、
「お前さんもやはり関東かね、どこから来なすった
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