なり、お園改め園絵と並んで内裏雛《だいりびな》と言われたくらい、そのお園にちっとも見劣りがしないどころか、却って、男だけにきりっ[#「きりっ」に傍点]としていて立ち勝《まさ》って見えるほどの名打ての美男だ。この名打ての美男が、気を張り詰めてポウッと上気していたところへ、何を思ったか、急にニッコリ白い歯並《はなみ》を覗かせたのだから、女なら傾国《けいこく》の一笑というやつ――壁辰、訳もなく釣り込まれて、こっちも、にっ[#「にっ」に傍点]と笑ってしまった。
もっとも、壁辰のほうは、ふだんから白眼《にら》み一方で、あんまり愛嬌《あいきょう》のある笑いなんか持ち合わせていない。色の黒いやつが笑ったんだから、まるで炭団《たどん》が転んで崩れたよう――喬之助の焉然《えんぜん》に対して、壁辰のは――さア、何というのか。
ま、そんなことは余計だ。
「や! おいでなせえ。生憎《あいにく》家をあけて――長くお待ちになったかね」
親分らしく、ゆったりして、壁辰が言った。
「いえ。あっしも、ただいま上りましたばかりで、ちょいと親方にお眼にかかって、お頼みしてえことがありやして、へえ」
どこで覚えたか、
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