ま》ったまま、じイッ! と、焼くように、喬之助の眼を見|据《す》えた。
壁辰は、左官が本職で、旁々《かたがた》お上《かみ》の御用もつとめているのである。岡っ引きとして朱総《しゅぶさ》をあずかり、その方でも、いま江戸で、一と言って二と下らない眼利《めき》きなのだ。まったく、喬之助はこのことを知ってこの黒門町へ来たのだろうか――それとも、ただの左官職とのみ思って、一時、下塗《したぬ》り奴《やっこ》にでも紛《まぎ》れ込んで八丁堀の眼を誤魔化《ごまか》すために、進んでここへ現れたのであろうか?
かなり長い間だった。
だんまり[#「だんまり」に傍点]なのである。
双方、眼に力を持たせて白眼《にら》み合っているのだが――喬之助は?
と、見ると、娘がひとり留守番をしているところへ上って待っていた、その壁辰が帰宅《かえ》って来た――のはいいが、一|瞥《め》自分を見るより、つ[#「つ」に傍点]と血相を変えて、いま眼前に立ちはだかったまんまだから、脛《すね》に傷持つ身、さては! お探ね者の御書院番を見破られたかな?!――と、今、ここで訴人《そにん》をされて押えられては、この七日間、苦心|惨憺《さ
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