イッと相手の眼を見つめている。
「私も考えておったが、形勢もきまったようですぞ」平淡路が言うのである。「この際、山城の言《い》い分《ぶん》の逆《ぎゃく》に出たほうがよいように思う」
「それは、言うまでもなく、山城殿は私情《しじょう》に動かされております。さもなくて、伊豆屋からお油御用を取り上げて筆屋幸兵衛へ用命しようなどと、さような小事にさほどまで執着《しゅうちゃく》さるるはずはないと、イヤ、これは、越州一個の考えでござるが――」
「私情? 私情は大出来! いつもながら大岡殿は皮肉でござるな。うっかり聞いておるとそれだけの言葉だが、さて、その言葉を砕《くだ》いてみると――ハハハハハ、どうも油断がならぬ。脛に傷持つ身には煙たがられる訳です。私情はよかった。いかさま私情、私情、金がほしさに、まいないを受けて策動《さくどう》いたす。わが身第一の動機で、なるほどコリャ私情、まさにわたくしの情でござるテ」
「ウフフフ、さような意味で申したのでもござらぬが――」
「断乎として山城の案を一|蹴《しゅう》し、従前どおり伊豆屋伍兵衛を引き立てて然るべく存ずるが、越前どの、御高意如何《ごこういいかが》?」
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