のことはなくても、つとその人々の動きが造酒の意識《いしき》に入って来た。と思うと、魚心堂が、ぱアッ! 投網《とあみ》を下ろすように全身を躍らして竿をしごいたのだ。糸が……蜘蛛の巣のような釣り糸が、粘《ねば》って、光って、虹《にじ》[#「虹《にじ》」は底本では「紅《にじ》」]の如くに飛んだ。絡《から》んだのである。造酒の刀身に渦をまいて纏《まつ》わりついたのだ。
 しかし、糸は糸、造酒が刀を引くが早いか、フッツリ切れたが、こういう些細《ささい》な邪魔でも、馬の眼を羽毛《うもう》が掠めたようなもので、気合《きあい》である。弾《はず》みである。微妙《びみょう》な刀機《とうき》を尊ぶこの場合、魚心堂はこの動きで、立派に先を制することが出来たのだろう。造酒が、刀を横に流して、魚心堂のかけた糸を切り放していた時、魚心堂はすでに、お妙を小腋に抱きかかえて、雨戸を蹴破って、その板戸とともにでんどう[#「でんどう」に傍点]返し、見事に庭に降り立っていた。素早く追った造酒の長剣は、それこそ銀百足のように、庭へ倒れようとする雨戸を一枚ザアーッ! と這って二つにしたに過ぎない。
 その戸を背に刀を避けた魚心堂
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