渉《こうしょう》で二梃の駕籠が仕立てられ、お妙が先に乗った様子だ。
魚心堂がこっちから見ていると、長庵しきりに駕籠屋に耳打《みみう》ちして、駕籠屋は何かうなずいている。
長庵がこっそりふところを探って駕籠屋につかませたのは、酒代《さかて》を先《さき》にやったのだろう。
やがて長庵もあとの駕籠に乗りこんで、二梃前後して夜の街を走り出す。
ここまでは不思議ないが、変なことには、下谷へ行くにしては、道が違うのである。
ハテナ……と真剣に首を捻《ひね》った魚心堂は、つぎの瞬間、釣竿を肩に、あとを追ってスタコラ走り出していた。
間もなくお妙も、どうやら方向が変だと気がついたらしく、駕籠の中から何やら大声で言うのが聞えたが、長庵も駕籠屋も答えない。
ただ、一そう道を急《いそ》ぎ出しただけである。
駕籠は、計画通り、芝の源助町へ向っているのだ。
そして、魚心堂が尾行《びこう》している。
こうして二梃の駕籠と魚心堂が雁行《がんこう》の形に急いでいるその源助町……。
無形一刀流、神保造酒の道場である。
「お六……」
造酒が、呼んだ。
床柱を背に、大|胡坐《あぐら》である。
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