渉《こうしょう》で二梃の駕籠が仕立てられ、お妙が先に乗った様子だ。
 魚心堂がこっちから見ていると、長庵しきりに駕籠屋に耳打《みみう》ちして、駕籠屋は何かうなずいている。
 長庵がこっそりふところを探って駕籠屋につかませたのは、酒代《さかて》を先《さき》にやったのだろう。
 やがて長庵もあとの駕籠に乗りこんで、二梃前後して夜の街を走り出す。
 ここまでは不思議ないが、変なことには、下谷へ行くにしては、道が違うのである。
 ハテナ……と真剣に首を捻《ひね》った魚心堂は、つぎの瞬間、釣竿を肩に、あとを追ってスタコラ走り出していた。
 間もなくお妙も、どうやら方向が変だと気がついたらしく、駕籠の中から何やら大声で言うのが聞えたが、長庵も駕籠屋も答えない。
 ただ、一そう道を急《いそ》ぎ出しただけである。
 駕籠は、計画通り、芝の源助町へ向っているのだ。
 そして、魚心堂が尾行《びこう》している。
 こうして二梃の駕籠と魚心堂が雁行《がんこう》の形に急いでいるその源助町……。
 無形一刀流、神保造酒の道場である。
「お六……」
 造酒が、呼んだ。
 床柱を背に、大|胡坐《あぐら》である。
 脇
前へ 次へ
全308ページ中283ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング