ってサ」
「ナナ何だ?」ガラリと調子を変えた三次だ。「出直せだと? 面《つら》洗って出直せだと。ヤイヤイこのおれを誰だと思う」
 相手が女と侮《あなど》ってか、人もあろうに、今評判喧嘩渡世の大姐御、御意見無用いのち不知の知らずのお絃ちゃんにたんか[#「たんか」に傍点]を切ろうというのだから、さてはこの戸塚の三公、神田へ来てお絃の顔を知らないところを見ると、こいつ、精々《せいぜい》長庵の下廻りをつとめるくらいが関の山で、大きなことをいっても、やくざ仲間では、どうやらモグリらしい。
 そこはやはり、貫禄というものは争えない。お絃は、クスクス笑い出していた。
「お前の名なんか、聞きたかないよ。お帰りったらお帰り」あっさりしたもので、犬でも追い払うような手つきをする。「サ、お帰りよ」
「戯《ふざ》けるなッ! 兄が妹をつれて行くに何の文句があるんでエ。帰《けえ》るには帰るが、妹をつれて帰るんだ。来いッ!」
 三次が、大声を揚げて呶鳴り散らしていると、おもての戸が開け放しになっていて、家内《なか》が見える。通りかかった人がふと覗《のぞ》き込んで、
「御めんなさい。何ですね、この夜ふけに大きな声をし
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