何とか引き分けに致そうと存じまして、つい思いついたまま呶鳴《どな》りましたような次第で、それが、計らずもお名前を詐《かた》るようなことになりまして、何とも、恐縮の至りでございます」
「それも存じておる」
「そう致しますと、他《ほか》に何も申し上げることはございませんので」
「もう何も申すことはない? フム、確《しか》とさようか」
「――――」
「その、争いを致しておったものは、何《なに》やつと何奴《なにやつ》か」
「何でも、芝の源助町とかの――」
「無形一刀、神保造酒の道場の者ども。よろしい。が、それは一方である。喧嘩には相手方があるはず。相手は何者じゃ」
 大岡様の前に、嘘言《うそ》をいって通らないことは、誰よりも一番よく心得ている金山寺屋音松である。死んだ気になって眼をつぶって、すっぱりと言った。
「その喧嘩の相手は、神尾喬之助でございました」
「そうか。神尾を助けるために、お前はわしの名を持ち出したのじゃな」
「助けると申して別に――」
「神尾は、天下を騒がし、法を愚弄《ぐろう》し、あまつさえ番衆の首を落し廻るとか大言壮語致しおる大痴《おおたわ》けじゃ。もっとも、既に二人とか三人
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