きたこころもない。胸は波を打ち、耳は火照《ほて》るし、眼はくらんで、冷汗が腋の下を伝わるばかり、顔も上げられないのだ。
「へえ」
 と言ったきり、口をモゴモゴさせて頭を掻いていると、越前はつづけて、
「どうじゃナ、わしはまだ一度も、早朝、富士見の馬場へ試乗に参ったことはない」
「へえ」
「へえではない」
「はい」
「はいでは解らぬ」
「恐れ入りましてございます」
「恐れ入った? 何を恐れ入っておるのだ」
「――」
「われから恐れ入ったと申す以上、何か貴様よからぬことを致しておるナ」
「じつは……」
「うむ。申して試《み》い」
「はい。じつぁお殿様、こういう訳でございます、……あの晩、あっしの乾児《こぶん》のひとりが駈け込んで参りまして、富士見の馬場で大喧嘩があると申しますので、御用をうけたまわっております手前、早速に人数を集め、仕度を整《ととの》えて繰り出しましたところが――」
「ウム、そこまではこの越前も存じておるぞ」
「さようでございますか。そこで、富士見の馬場へ飛びこんでみますと、大分の人数が渡《わた》り合《あ》っておりますので……」
「その事も存じておる」
「へえ、そこでその、
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