き》の御用人にでも会って何か話があるのだろうと思って来たのが、直接殿様にお眼通りするのだという。狼狽《ろうばい》の極《きょく》、逆上《ぎゃくじょう》したようになっている音松を案内して、若侍は、予《かね》て命令《いいつ》けられていたものらしく、ドンドン奥へ通って行く。生れてはじめてこういうお屋敷の奥へはいったので、音松はキョロキョロしながらついて行くと、人の気はいもなくシインと静かである。これは、何事か密談があるとみえて、越前守は人を遠ざけて音松を待っているのだが、やがて、お廊下の突き当りの一室の前へ出ると、室内《なか》にいらっしゃるからあけてはいるように、……そう眼顔で知らせて若侍はまるで逃げるように、サッサと引っ返してしまう。
ひとり残《のこ》された金山寺屋音松である。
どっちを見ても、暗いお部屋が並んでいるだけで、人影はおろか、物音一つしない。ただ、眼の前の障子に明るい光りがさしている。この室内《なか》に、南町奉行大岡越前守忠相様がいらっしゃる――そう思うと音松は、そこのお廊下にべったりすわったきり、すっかり固《かた》くなってしまって、中なかその障子に手をかけることが出来ないの
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