之助と音松と眼が合うと、多勢の捕方をうしろに押さえて動かさない音松、それとなく頭を下げて、早くお帰りなさい、と眼顔《めがお》で知らせた。
「うむ、あれはいつか、じぶんを右近殿と言いなして、黒門町において危いところを救ってくれた目明《めあか》しである。ハテ、そも何の心あって重ねがさねこの恩を垂れてくれるのであろう――」
と、不審に感じながらも、喬之助は音松に、遠くから慇懃《いんぎん》に挨拶して、魚心堂先生とお絃と三人づれそのまま朝の巷《まち》を神田帯屋小路へ帰ってみると……右近はもう帰って来ている、平気な顔だ。
「やア、三人お揃いで源助町を食いとめてくれたのだろう。そうであろうと思っておった」
格子をあけてはいって来たお絃、いきなり鼻をクンクンさせて、
「お前さん、焦臭《こげくさ》いねえ」
「あッ! そうだった! コリャいけねえ」
あわてた右近が台所へ飛び込んで、釜のふたをとると、あたら白い御飯が、狐色どころか真ッ黒ぐろに焦げているので――散々お絃に叱られながら、
「あまり腹が減ったから、独りで炊《た》いてみたのだが……」
右近は頭を掻きながら、筆を持って来て、壁の貼紙の松原源兵
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